講師:鈴木悠氏(東海大学政治経済学部特任講師)
玉井良尚氏(立命館大学立命館グローバル・イノベーション研究機構専門研究員)
演題:(鈴木氏)「日清戦争に対する列強干渉-イギリスを中心に考える」
(玉井氏)「旧日本軍による水の軍事資源化:戦前・戦中における相模原の水資源開発からの考察」
日時 令和5年3月25日(土) 14:00~17:00
場所 Zoomオンライン会議
令和4年度関西支部第2回例会もZoomオンライン会議形式で開催された。
鈴木報告は、日清戦争期における日英関係の通説的理解に対する批判である。すなわち、日清戦争後、ドイツ、ロシア、フランスが三国干渉を起こした中で、イギリスは戦争に干渉しなかったため、日本とイギリスが接近し、ロシアとの利権対立が表面化していき、日英同盟の締結や日露戦争の勃発につながっていくとの理解に対するアンチテーゼである。
報告では、イギリスのアーカイブス史料をふんだんに用いて、イギリスは、日清戦争の初期から中立国の権利と義務の問題をめぐり、日本に外交的圧力をかけていたことが詳細に報告された。それゆえに戦争終結時における日英関係はあまりよくなったことが指摘された。そして日清戦争後の7年間に、日英関係が急速に良くなったという見通しが示された。
玉井報告では、軍がその存続に必要不可欠な水資源に注目する。旧日本陸海軍は、各地の軍事拠点で水資源アクセスを確保するために、ダムや浄水場などの水インフラを数多く整備した。今回の報告では、戦前と戦中における神奈川県の相模川開発に焦点があてられた。
相模川開発で中核事業となったのは、相模ダムの建設である。この事業は、先行研究においては、戦時総動員体制に基づく開発の権化のように捉えられる傾向にある。しかし日清戦争直後に旧陸軍が水道布設を主導した広島や、鎮守府軍用水道の余剰水を分与する形で水道事業が始まった呉市や佐世保市など軍港都市を基準に考えれば、相模川開発における旧日本軍の関与度合いはむしろ小さいということが種々の史料を用いて示された。
二つの報告の主題に共通点は少ないが、それぞれ新しい視座を提示し、さらに堅実な史料操作に支えられたエキサイティングな報告であることは間違いがない。