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第53回(令和元年度)年次大会

  • 日時 令和元年6月1日(土)~2日(日)
  • 場所 名城大学ナゴヤドーム前キャンパス(1日)
       豊川駐屯地・豊川海軍工廠平和公園(2日)

 本年度の年次大会は、「ノモンハン事件八〇周年」をテーマに1日目を名城大学ナゴヤドーム前キャンパスで開催、続いて2日目には陸上自衛隊豊川駐屯地と豊川海軍工廠平和公園での史跡研修を実施しました。第1日目の年次大会には124名の参加者があり、第2日目の史跡研修には59名の参加者がありました。
 6月1日は、名城大学ナゴヤドーム前キャンパス北館3階DN301教室において、10時30分から総会が開かれ、次のような議案が報告・審議されて何れも意義なく承認されました。

  1. 平成三十年度事業報告および収支決算報告、会計監査報告
  2. 令和元年度事業計画および収支予算案
  3. 令和元年度阿南・高橋学術奨励賞選考結果報告

 このうち阿南・高橋学術奨励賞は、『軍事史学』に掲載された論文の中から最優秀論文を隔年で選考するもので、厳正な審査の結果、今回の受賞は帝京大学の浜井和史会員による論文「冷戦下の慰霊と外交―一九六〇年代の墓参問題を中心に―」と決定しました。
 総会終了後、11時20分から戸部良一顧問(防衛大学校名誉教授)を講師として、「ノモンハン事件の周辺」と題する基調講演がおこなわれました。今回の講演では、①日本の政軍指導者は、いつ、どのように事件に関わったのか、②事件をめぐる陸軍中央と関東軍との関係は、どのようなものだったのか、③事件の責任者「処分」をどのように考えるべきか、というノモンハン事件をめぐる三つの問題を主軸に、実証史学の見地からお話しいただきました。基調講演の詳しい内容は、『軍事史学』第55巻第3号に収載した講演録をご覧ください。
 昼食と休憩をはさんで、今回の共通テーマとなった「ノモンハン事件八〇周年」をめぐるパネルディスカッションが、稲葉千晴理事(名城大学)の司会により、13時30分から14時30分までおこなわれました。パネリストは、戸部顧問のほか花田智之(防衛省防衛研究所)・齋藤達志(防衛省防衛研究所)・笠原孝太(日本大学)の4名で、各自の専門分野からノモンハン事件についての新たな視座と展望に関する報告がなされたのち、「国際的文脈から見たノモンハン事件」「地図資料からわかる新たな実相」といったイシュー別の討論がおこなわれ、「ノモンハン事件から学ぶ戦史の教訓」という形で議論が総括されました。パネルディスカッションについても、詳細が 『軍事史学』第55巻第3号 に収載されております。
 続いて14時50分から、共通論題1セッション・自由論題3セッションから成る個人研究発表が、次のような内容で実施されました。

部会① 共通論題 司会:花田智之(防衛省防衛研究所)

  • 「労農赤軍政治指導本部の報告を使用したノモンハン事件の検討」笠原孝太(日本大学)
  • 「スペイン内戦と日本―ノモンハン事件との関連―」等松春夫(防衛大学校)
  • 「第二次ノモンハン事件における、いわゆる無断撤退について―第二三師団捜索隊の例を中心に―」齋藤達志(防衛研究所)

部会② 自由論題 司会:広野好彦(大阪学院大学)

  • 「第二次世界大戦期の中京圏―地方名望家日記に見る「銃後の社会史」― 」水谷英志(会員)
  • 「名古屋第三師団の戦後―その慰霊と継承―」小島郁夫(愛知県庁)
  • 「廠窖事件の日本側史料による検証」広中一成(愛知大学)

部会③ 自由論題 司会:淺川道夫(日本大学)

  • 「『明治三十七八年作戦経過の概要』系史料について―幹部学校旧蔵史料を中心に―」別所芳幸(会員)
  • 「軍艦『筑波』による初の遠洋練習航海―明治八年(一八七五)、なぜ『筑波』は太平洋を渡れたのか―」大井昌靖(会員)
  • 「ユダヤ人難民に対するリトアニア政府の対応一九三九―四〇年―『命のヴィザ』の舞台となったリトアニアの内情を解明する―」Simonas Strelcovas(シャウレイ大学)

部会④ 自由論題 司会:鍋谷郁太郎(東海大学)

  • 「イギリスの「スエズ以東」防衛の動揺―ヨーロッパ統合とオーストラリア軍撤退の狭間で、一九七二―七四年―」篠崎正郎(航空自衛隊幹部学校)
  • 「一九七〇年代後半の中性子爆弾欧州配備とイギリス外交」岡本宜高(金沢大学)
  • 「プロイセン人将校と宗派難民たち―十七世紀末におけるブランデンブルク=プロイセン軍へのユグノー受け入れ―」林祐一郎(京都大学大学院生)

 個人研究発表終了後、17時30分から名城大学ナゴヤドーム前キャンパス北館1階の「カフェレストランMU GARDEN TERRACE」において懇親会が開かれました。懇親会の参加者は78名で、和やかな雰囲気の中、会員どうしの歓談がおこなわれました。
 大会2日目となる6月2日には、名古屋駅に集合してバスに乗り、史跡研修のため豊川に向かいました。最初の目的地である陸上自衛隊豊川駐屯地に到着すると、担当官によるブリーフィングを経て、横山久幸副会長(元防衛大学校教授)による、「豊川海軍工廠の役割と生産力の実態」と題する特別講演が実施されました。この講演は、午後に予定されている豊川海軍工廠址の見学にあたっての事前学習の意味を併せ持つもので、講師の専門分野である軍事技術史の視点を踏まえ、客観的かつ実証的な予備知識を得ることができました。
 特別講演の後、駐屯地の食堂で昼食をとりました。大会委員会からは部隊食の提供をお願いしていたのですが、当日は名物のひつまぶしをご用意いただくなど、駐屯地関係者の皆様から温かいご配慮をいただきました。昼食後は参加者各自で、駐屯地内の三河史料館を見学しました。同史料館には、中世・近世を含めた軍事関係史料約二千点が収蔵されており、会員それぞれが自身の関心にあわせ、時間が経つのを忘れて展示品に見入っていました。
 続いて豊川海軍工廠平和公園に向かい、平和交流館で映像資料を視聴したのち、ボランティアのガイドに引率されて「第一火薬庫」や「第三信管置場」をはじめとする史跡を見学しました。そのあと豊川稲荷に立ち寄った後、JR豊橋駅において解散しました。史跡研修の詳細については、本号収載の別稿をご覧ください。
 本年度の年次大会開催にあたっては、稲葉千晴理事のご尽力により、第1日目の会場となった名城大学ナゴヤドーム前キャンパスのスタッフから多くのご協力をいただきました。また第2日目の史跡研修にあたって、陸上自衛隊豊川駐屯地の方々からは本当に温かいご支援を賜りました。大会委員一同、厚くお礼を申し上げる次第です。

(文責・淺川道夫)

年次大会報告・史跡研修編


 6月2日は、8時15分に名古屋駅太閤口ゆりの噴水前に集合し、8時30分に同駅西口バースより出発しました。10時に陸上自衛隊豊川駐屯地に到着し、まず、三河史料館田中博館長より、史料館に関するブリーフィングを頂きました。
 続けて、横山久幸副会長による「豊川海軍工廠の役割と生産力の実態」と題する特別講演がおこなわれました。豊川海軍工廠設立の経緯や生産の実態、昭和二十年八月七日の米軍空襲において、動員学徒・女子挺身隊員を含む工員・職員に死者2,500名以上もの損害を出してしまった経緯等を、詳しくご説明頂き、併せて豊川海軍工廠平和記念公園見学の際の予備知識を得ることができました。
 講演後、豊川駐屯地司令中村雄久一等陸佐よりご挨拶を賜りました。その後同駐屯地食堂にて昼食を取りました。その際、駐屯地のご厚意により「ひつまぶし」をご提供いただき、思いもしなかった御馳走を美味しくいただきました。
 昼食後、駐屯地内にある三河史料館を見学いたしました。この史料館は、駐屯地の位置する三河地方の歴史・文化や、旧軍史料そして自衛隊に関する資料等約二千点が展示されています。中でも注目されるのが、海軍呉通信隊が傍受した、開戦日を告げる「新高山登レ一二〇八」電文です。これは、呉通信隊の通信兵であった中村文治氏が記念のため保存していた訳文の「原紙」であり、現存する唯一のもので、大変貴重な史料です。これを見学することができ、感慨ひとしおでありました。また、その他の史料も興味の尽きない内容でした。
 続いて、近くの豊川海軍工廠平和記念公園に移動しました。この公園には、工廠の火薬庫や信管置場等の戦争遺跡や、工廠の歴史を紹介する平和記念館があり、四班に分かれ、ガイドの説明を受けながら見学をいたしました。
 その後豊川稲荷を経て、16時30分豊橋駅前で解散いたしました。
 今回も有意義な史跡研修を行うことができました。
 研修にあたっては、豊川駐屯地中村雄久司令をはじめ、三河史料館田中博館長、同駐屯地広報の三宅由姫子氏には多大なご尽力を賜りました。また、今回の大会開催にあたっては、稲葉千晴理事に大変お世話になりました。会員一同、深くお礼申し上げます。

(文責・岸田健司)

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