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第45回(平成23年度)年次大会

日時 平成23年6月4日(土)~5日(日)
場所 皇學館大学(三重県伊勢市)及び伊勢市・津市周辺史跡

 今年度の年次大会は、皇學館大学の協力を得て「戦没者の慰霊と顕彰」を共通テ―マとして二日間にわたって開催されました。今回は、開催地に因んで国家に殉じた人々の慰霊と顕彰を軍事史的な視点から捉えることを試みた大会であります。初日は、皇學館大学において午前中にワルシャワ大学教授エヴァ・パワシュ゠ルトコフスカ女史から基調講演を頂き、午後から個人研究発表を二部に分けて計五会場で行いました。第一部と第二部いずれの時間帯にも共通テーマの部会を設け、興味に沿って聴けるようにしました。また、同大学構内にある神宮文庫のご厚意により、国宝級の貴重な諸史料を見ることができました。二日目は、午前中に皇學館大学において同大学教授の岡野友彦氏から特別講演を頂いたのち、伊勢神宮に参拝し、午後から陸上自衛隊航空学校(旧明野陸軍飛行学校跡)及び香良洲歴史資料館(旧三重海軍航空隊跡)の研修を行いました。お陰をもちまして、大会初日は、皇學館大学の学生を含む一三二名の参加があり、二日目の史跡研修には九六名の会員が参加しました。地方開催にもかかわらず多数の参加を得て成功裡に終わることができました。まず、初日は皇學館大学六号館の大会会場において午前十時三十分から総会が開かれ、はじめに会長挨拶が行われました。挨拶では、開催校として多大な支援を頂いた皇學館大学へのお礼と今大会への抱負が述べられました。次に、昨年から取り組んでいる学会活動の活性化と強化のための取り組みについて会員の一層の協力が要望されました。また、2013年国際軍事史学会日本大会の準備に重大な変更が生じ、議案として報告することが述べられました。その後、左記の議案について審議・報告が行われ、いずれも異議なく承認されました。

一 平成二十二年度事業報告及び収支決算報告、会計監査報告
二 平成二十三年度事業計画及び収支予算案
三 国際軍事史学会日本大会開催について
四 平成二十三年度顧問就任及び委員長交代について

 続いて、11時20分から皇學館大学学長の清水潔氏から歓迎のご挨拶を頂きました。ご挨拶では、大学創立一三〇周年と再興五〇周年を控え、伝統ある軍事史学会の大会が開催されることを歓迎するとともに、皇學館の建学の精神と「神の地・伊勢」に相応しく「戦没者の顕彰と慰霊」を大会のテーマとされたことに敬意を表し、今大会が多大な成果を収められることを祈念するとのお言葉を頂きました。 なお、議案第三に関しては、これまで鋭意準備を進めてきた国際軍事史学会の日本での開催が東日本大震災という未曾有の災害とそれに伴う原発事故等の影響で、今後計画通りの進捗が期待できないことから開催を断念せざるを得なくなったことが報告され、開催中止が承認されました。また、二十一年度総会において日本大会開催を目途に値上げが承認された会費に関し、学会活動の充実と会員へのサービスの向上に努めることを条件に会費をそのままとすることが承認されました。続く、議案第四については、平間洋一前理事が顧問に就任され、編集委員長が喜多義人理事に、大会委員長が淺川道夫理事に、例会委員長が横山久幸理事にそれぞれ交代したことが報告されました。
この後、二年に一度選考される阿南・高橋学術研究奨励賞の授与が行われ、優秀論文として広中一成会員の「国立故宮博物院からの金属製文物の対日『献納』―一九四四~一九四五―」(『軍事史学』第45巻第3号に掲載)が受賞しました。本論文は、故宮博物院から日本に回収された金属製文物の実態について、中国側の史料をもとに綿密に分析したものであり、文化財と戦争の関わりという、軍事史の新たな地平を開く斬新な視点と戦時の中国側の一面に光を当てたことが高く評価されました。

その後、11時30分からルトコフスカ女史による基調講演が行われました。「日本に眠るポーランド人たち―戦没者の記念に―」と題した講演は、日露戦争においてロシア軍として戦い、捕虜となって異国の地・日本で亡くなったポーランド人の墓碑を女史が歳月をかけて丹念に調べ上げた調査活動の記録であり、ポーランドと日本の歴史的な結びつきの深さに聴衆の多くが感銘を受け、午後に行われた個人研究発表に多大な示唆を与えるものでした(詳細については、『軍事史学』第47巻第3号の4~17頁を参照してください)。
午後に入り、個人研究発表の第一部が13時30分から「共通論題」一会場、「自由論題」二会場に分かれて行われました。続いて、第二部が15時35分から「共通論題」「自由論題」それぞれ一会場で実施されました。各会場とも盛況であり、レベルの高い報告が行われ、終始活発な議論が交わされました。各部会の司会及び報告者とそのテーマは下記のとおりです。

部会1「共通論題」      司会:淺川 道夫(日本大学)

靖国神社の祭祀と境内整備
―近代日本における慰霊の「公共空間」形成―
藤田 大誠(國學院大學)

第二次世界大戦期の慰霊と予備役将官
―荻洲立兵陸軍中将の事例から―
水谷 英志(会 員)

東部ニューギニア地域における遺骨収集・慰霊巡拝の展開
―戦友・遺族・非戦争体験者の関係性の視点から―
中山 郁(國學院大學)

部会2「自由論題」      司会:相澤 淳(防衛研究所)

植民地支配における朝鮮軍
―駐箚隊から常備軍への道―
濱田 秀(防衛大学校)

1941年日米交渉と中国駐兵問題
―海軍と外務省の動向を中心に―
小磯 隆広(明治大学)

米内光政の現役復帰・海相留任をめぐる海軍・重臣の動向
篠塚 広海(国士舘大学)

部会3「自由論題」司会:根無 喜一(大阪学院大学)

1906年の奉天博覧会と陸軍の兵器出展
―初期満洲経営における民間と陸軍の協力―
長谷川 怜(学習院大学)

陶器製手榴弾の生産と配備の実態調査
山本 達也(会 員)

キッチナーの戦争指導
和田 応樹(同志社大学)

部会④「共通論題」      司会:河野 仁(防衛大学校)

慰霊施設としてのホーエンザルツブルク
小島 郁夫(愛知県庁)

中華人民共和国における革命・戦争の慰霊・顕彰
―「烈士陵園」の現在―
三好 章(愛知大学)

部会⑤「自由論題」      司会:立川 京一(防衛研究所)

参謀本部独立の意義について
―『参謀本部歴史草案』と『桂太郎旧蔵諸家書翰』から―
齋藤 達志(防衛研究所)

冀東防共自治委員会の成立と板垣征四郎
広中 一成(愛知大学)

予算編成と陸軍大臣のリーダーシップ
大前 信也(同志社女子大学)

神宮文庫の見学に際しては、第一回目は12時40分から、第二回目は15時30分からと二度も国宝級の史料を展示して頂き、神宮主事の黒川典雄氏から丁寧な説明をお聞きしました。展示された史料は、「玉篇巻第廿二」「皇太神宮儀式帳」「日本長歴」「押小路実潔建白書」などであり、参加者は一様に感嘆の声を上げておりました。この見学は部会の一環として行われ、個人研究発表の第二部「共通論題」では、神宮文庫の見学の後に報告に入りました。

二日目は、午前8時15分から大型バス2台に分乗して史跡研修が行われました。まず、皇學館大学において岡野氏による特別講演が行われました。「常陸小田城における北畠親房の戦い」と題した講演では、南北朝の抗争における北畠親房の戦いが苦戦の連続であったとするこれまでの研究に疑問を呈する近年の研究について、親房にとっての関心事の視点から解説を頂きました。特に、親房の著した『神皇正統紀』の「正統」には「『不徳』の皇統を斥ける『易系』革命が天照大神の神意」であるとの意味が込められているという研究成果は、まさに「正統」の「真意」を追求したものであり、専門外の者でも容易に理解できる説明と相まって大変興味深いものでした。
続いて、伊勢神宮の内宮に参拝し、まず神殿を取り囲む囲いの中の白い砂利の上で直接神殿を拝む御垣内参拝を行い、「おはらい町」で「手ごね寿司」を食した後、神楽殿で神饌を供え祝詞を奏上し雅楽を奏でる御神楽のうち、最も丁寧な大々神楽を奉納しました。
その後、戦前に明野陸軍飛行学校があった陸上自衛隊航空学校を訪問し、戦没者を慰霊した駐屯地内の「忠魂」の碑に参加者全員が献花しました。その後、二班に分かれて「航空記念館(旧将校集会所)」と格納庫にある陸上自衛隊の対戦車ヘリコプターなどを見学しました。「航空記念館」には、慰霊と顕彰のコーナーと陸軍航空関係資料の展示コーナーがあり、加藤隼戦闘隊として名声を博した加藤建夫中佐の等身大の肖像画や木像、日本でライセンス生産された単発複葉機サルムソンの日本楽器製プロペラなどが展示され、参加者の興味が尽きないようでした。
続いて、津市に移動し、三重海軍航空隊の跡地に造られた香良洲歴史資料館を見学しました。この資料館は、郷土資料の展示のほか、平和を祈念して海軍飛行予科練習生ゆかり品々や彼らの生活の様子を写した写真などが展示されています。また、屋外には予科練各期の記念碑なども建てられており、「戦没者の慰霊と顕彰」をテーマとした今大会を締めくくるに相応しい資料館でした。
なお、懇親会は大会初日の個人研究発表が終了した後、伊勢シティホテルに会場を移して18時30分から行われました。この会には、講師のルトコフスカ女史及び岡野氏、開催校としてご協力を頂いた皇學館大学学長の清水氏及び同史学科の谷口裕信氏をお招きして、打ち解けた雰囲気の中で行われました。なお、地方開催にもかかわらず、懇親会に総勢116名もの参加を得たことは今大会への関心の高さを示しています。

(文責・横山久幸

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