日時 平成十七年六月四日(土)
場所 筑波大学 大学会館(茨城県つくば市)
軍事史学会創立40周年にあたる今年度の年次大会は、百三十名を超える会員の参加を得て、これまでの学会の歩みを顧み、またそれに学び、諸先輩の方々の残された貴重な成果を基に、学会として明日のビジョンを描く記念大会として開催されました。記念行事としては、軍事史学会元副会長の近藤新治氏による記念講演と現理事による「軍事史学会40年―その将来を見つめて―」と題した座談会が行われました。また、個人研究発表では、研究活動の一層の充実と向上を目的に、昨年度よりも部会を増やし、より多くのテーマを取り上げたほか、特に、今年度の新しい試みとして二つの部会にコメンテーターを設けました。各会場では議論がより深められ、研究報告がより充実した大会となりました。
なお、今大会も業務の簡素化・合理化の一環として大会参加費等の事前振込みや大会資料集の簡素化等を試みましたが、会員各位の協力により大会担当会員の負担を一層軽減することができました。
総会は、午後一時五十分から開かれ、始めに高橋久志会長の挨拶が行われました。会長挨拶では、本学会の飛躍のためには今年が重要な年であり、大会における個人研究発表会の充実、特集号作成への積極的な取り組み、支部例会の活性化、国際交流の場の開拓、ITの更なる活用などを目指すことが表明されました。また、本学会の一層の飛躍と発展のため、会員数を千名とすることが目標として掲げられました。
続いて、議事に入り、左記の議案について審議が行われ、いずれも異議なく承認されました。
一 平成十六年度事業報告及び収支決算報告
二 会計監査報告
三 平成十七年度事業計画・収支予算案
この後、二年に一度選考される学術研究奨励賞、阿南・高橋賞の授与が行われ、優秀論文として淺川道夫会員の「江戸湾内海の防衛と品川台場」が受賞しました。本論文は、品川台場の防衛上の価値を戦術・戦略的な視点から批判的に考察した点が評価されました。
軍事史学会創立四十周年記念行事として行われた記念講演は、午後三時から「軍事史研究の普及を目指して―一戦史研究家の回想―」と題して軍事史学会元副会長の近藤新治氏にご講演を頂きました。氏は長きにわたる戦史研究活動と戦史叢書編纂官としての経歴を踏まえて、戦史研究者としての心構えやこれからの戦史研究の課題について、エピソードを交えて話され、当学会における研究活動の向上に関して貴重なご意見を頂きました。
続く記念行事として、「軍事史学会四十年―その将来を見つめて―」と題した座談会が高橋久志会長の司会で行われました。座談会では、パネリストとして太田弘毅会員、影山好一郎会員、庄司潤一郎会員、根無喜一会員がそれぞれの分野から軍事史の研究と当学会の発展に関して忌憚のない意見を述べました。続いて、戸部良一副会長がコメンテーターとして、それらの議論を総括する形で学会の将来像を示唆する論評を行い、活発な議論が展開されました。(近藤新治氏による特別講演と座談会の要旨は、続稿に掲載)
個人研究発表は、午前十時三十分から午後十二時四十分まで五会場に分かれ行われました。今年度の新たな試みとして、部会①では「パール・ハーバー」、部会②では「第二次世界大戦と東南アジア―戦後60年にあたって―」と題して、報告者に続いてコメンテーターがコメントを行い、テーマに絞ったより深い議論が展開されました。自由論題となったその他の会場も発表者複数によるパネル・ディスカッションが行われるなど、午前中の開催であったにもかかわらず、開始早々から多数の会員が参加して活発な議論が交わされました。
部会①「パール・ハーバー」 司会 戸部 良一
杉原誠四郎「日米開戦における日本側のアメリカ外交電報解読史実の発掘の経過」
茶園義男「対米最後通牒の徹底研究―廟議背馳?MRMORANDUM―」
コメンテーター 戸部良一部会②「第二次世界大戦と東南アジア―戦後60年にあたって―」 司会 庄司潤一郎
林英一「残留日本兵のみたインドネシア独立戦争―『ラフマット・小野コレクション』をめぐって―」
野村佳正「占領と同盟を巡る政戦略-ビルマ1941~1945-」
コメンテーター 波多野澄雄部会③「自由論題」 司会 淺川 道夫
大前信也「陸軍予算の編成と軍務局軍事課」
竹本知行・前原康貴・淺川道夫「幕末・維新期における近代陸軍建設と英式兵学」部会④「自由論題」 司会 進藤 裕之
今村伸哉「近世ヨーロッパ『軍事革命』の再考―オランダ共和国陸軍のRMAの創成と歴史的意義を中心に―」
湊晋平「第二次世界大戦の日本の戦略的意志決定の分析」
狩野直樹「PSB D-23の形成と変容―米国の東南アジア政策1952~53年―」部会⑤「自由論題」 司会 菅野 直樹
中村治彦・冨澤一郎「日露海戦をめぐる情報通信環境―両国の無線電信機開発とその運用を中心に―」
別所芳幸「奉天会戦における第三軍―もう一つの主攻正面論争―」
種稲秀司「1929年中ソ紛争の『衝撃』-満州事変前後における日本陸軍の対ソ観念-」
大会終了後、筑波大学学生会館において、午後六時から懇親会が開かれました。懇親会には八十名ほどの会員が参加し、本学会の将来を語るに相応しい打ち解けた雰囲気のなかで意見交換を行い会員相互の親睦を図ることができました。