日時 平成十四年五月二十五、六日
場所 関西学院大学及び神戸周辺地区
本年度は関西学院大学のご後援をいただき、本学会関西支部の企画・運営で、「歴史上のターニングポイントにおける海港都市」をテーマに、百三十名を超える会員の参加を得て盛会裡に実施された。
第一日目は、午前十時半から総会が開かれ、伊藤隆会長の挨拶の後、議事に入り、左記の議案について審議が行われ、いずれも異議なく承認された。
一、平成十三年度事業報告
二、収支決算書・会計監査報告
三、役員改選
四、平成十四年度事業計画・収支予算案
このあと、平成六年以来四期八年間もの長い間、本学会会長の重責を完うされた伊藤隆会長の後任として新たに会長となった高橋久志上智大学教授から就任挨拶、新役員の紹介があった。
午後は、前国際法学会会長・大阪学院大学国際学部教授の香西 茂 氏による基調講演「『海港』都市をめぐる国際法上の問題―わが国が当面した諸事例を中心に―」が行われた。前段は、幕末開国及び明治期の開港及び中立問題の諸先例ということで、ペリー来航と神奈川条約の締結、スターリングの渡来と日英協約、プチャーチンの来航と日露条約、ハリスの来日と修好通商条約、戊辰戦争とストーンウォール号事件、普仏戦争と日本の中立問題、マリア・ルース号事件、家屋税事件等、国際法の専門家として、具体的事例を挙げられ、その問題点を指摘された。幕末開国時には中立という問題をめぐって多くの問題があった。また通商条約の締結時に多くの港が開港されたが、この通商条約が後に不平等条約として批難の的になった。幕府の側は、このターニングポイントで鎖国の政策を改めるということに踏み切ったわけであるが、実際は後ろ向きであって、いかにして外国人との接触を制限(開港する港の数を限定)しようということだけが念頭にあり、近代国際法の基本である主権平等という考え方を基本とした意識がなかったということで、じ後に多くの問題を残したと評価された。後段は、海港都市と外国軍艦の入港問題ということで、神戸英水兵事件(入港外国軍艦の法的地位)を挙げて慣習国際法の実際の運用について具体的な適用について解説された。更にグローバル化問題として、非核神戸方式・高知県の非核港湾条例案(地方自治体の非核政策と国家の安全保障)、レインボー・ウォーリア号事件(ニュージーランドの非核政策とANZUS条約)を例を挙げて、地方自治体が自治権等権限の拡大を主張し、国家の主権が弱まっている傾向がある。地方自治体が自治権を増強するということ自体は好ましいことではあるが、自治体の自治権の中身が国家の安全保障・軍事・外交に関係することになると、自ずから制限を認めざるを得ないとう、貴重な意見を戴いた(講演の全文は、次期学会誌に掲載予定)。
次は、園田学園女子大学国際文化学部の田辺眞人教授が、「神戸は西の関ヶ原―日本史の中の神戸の位置―」と題して、翌日の史跡見学を念頭に置きながら日本の歴史に大きな役割を果した神戸の位置として、京都を中心とする陸上・海上交通の焦点[天下分け目の地]が神戸・須磨地区であったことを、江戸時代[天保七年]の古地図を提示しつつ、源平合戦の神戸、楠公の湊川合戦、信長の花隈合戦等を例示され、軽快なテンポで解説を戴いた。
その後十五時から四会場に分れ、下記のような個人研究発表が行われた。
(1)共通論題①:「歴史上のターニングポイントにおける海港都市」
① 淺川道夫:明治維新期における兵庫の「市兵隊」
② 欠
③ 片山邦雄:明治前期の近海港湾と定期航路 ―上海、香港、ウラジボストーク
(2)共通論題②:「歴史上のターニングポイントにおける海港都市」
① 本橋弘毅:アメリカ誕生・フィラデルフィア
―政治、経済、軍事機能を中心に―
② 松川克彦:第二次大戦勃発とダンツィヒの役割
③ 永江太郎:神戸の戦略的地位の変遷と湊川決戦
(3)自由論題
① 山本崇人:1854年クリミア半島侵攻作戦の立案・採用の経緯について
② 山口 悟:1920年代のイギリス海軍と極東防衛問題
③ 高原秀介:米国の戦後東アジア・太平洋秩序構想
―ウィルソン政権の対応を中心に―
(4)自由論題
① 山本智之:参謀本部戦争指導課のドイツ認識
② 安藤公一:ドイツ軍の西方“電撃戦”をめぐる伝説
―“電撃戦”戦略、“鎌”計画、ダンケルク―
③ 茶園義男:65年目の真実「2・26事件大臣布告」の発見
―親しく手にとって比較した“近衛ニセ文書”のホンモノ―
午後十五時半関西学院大学構内にある関学会館において懇親会が開かれ、関西学院大学学長 平松一夫氏からご祝辞を頂いた。懇親会には90名余が参加し盛会であった。
第二日目は8時から史跡見学。60名の方が参加し、旧居留地址、沢の鶴酒造資料館、和田岬砲台、清盛塚、一ノ谷、会下山、等を田辺眞人先生の軽快な解説と知識・造詣の深さに感動しつつ、一日を満喫した史跡見学であった。改めて、田辺先生に御礼を申し上げる次第である。